ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代 (上)


旧字・旧仮名遣いは改めました。また、漢字変換の煩雑を避けるために、一部、送り仮名や漢字が原書と異なるものもあります。

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 P51
 われわれは、自分自身とだって、考えているとおりに喋るとは限らないからね。他人には、その人たちの受け入れられることだけを話すのが義務なんだ。人間というものは、自分にわかることしか理解しやしない。子供には目の前にあることにだけ目を向けさせ、名前や特徴を教えてやるのが、なしうる最善のことだね。
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 P57
 生徒が差し当たり知らなければならない程度のことしか知らない教師ほど、始末におえないものはないからね。人に教えようとする者が、自分の知っている最善のものを口に出さないことはよくある。しかし、生半可な知識というのはだめだね。
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 P59
 信じたくない者は自分の道を行けばいいんだ。たまにはうまく行くこともあるよ。しかし、下から始めて上へ至るということがつねに必要なんだ、とぼくは言いたい。手仕事だけに専念する。これがいちばんいいんだ。劣った頭脳には、手仕事はいつまでたっても手仕事だ。もっとすぐれた頭脳にとっては、手仕事から芸術が生ずる。もっともすぐれた頭脳にとっては、ひとつのことをなすことによって、すべてのことをなす、ということになる。もっと具体的に言えば、彼の正しくなすひとつのことのなかに、彼は、正しくなされるすべてのことの比喩を見る、ということになる。
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 P74
 人間には、人間から自分を守らなきゃならない理由はいっぱいある。悪いことを考え、悪いことをする者はいやというほどいる。正しく生きるためには、慈善を施すだけでは不十分なんだ。
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 P139
 どこにいても人間には忍耐が必要だ。どこにいても気くばりをしなければならない。
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 P246
 長く生きた者は、それだけで何かをなしとげたことになるのです」と老人は言った。「それどころか、私たちは、自分の生存を越えて、維持し確保することができるのです。
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 P251
 時として私たちの運命は、冬の果樹のように見えます。その悲しい外観から、その木枯れた枝、とげとげしい小枝が、春になれば芽ぶき、花をつけ、果実を実らすと誰が考えましょう。しかし、私たちはそれを願い、それを知っているのです。